駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
指揮を取るのに忙しそうな土方を見つけた矢央は、乱れた呼吸もそのまま土方の名を叫んだ。
「お前等、今まで何処にいた!とくに矢央っお前は俺の目の届く範囲にいやがれっ!」
矢央の姿はボロボロだった。
土や泥や血で汚れ、よく見れば顔は涙で濡れている。
何かあったんだと分かり、土方は「なにがあった?」と静かに聞いた。
「源さんの最期の言葉を伝えに来ました…」
見開かれる双眸を真っ直ぐ見つめる。
「私の心は永遠に誠と共にあるっ…」
「……そうか。源さん、いっちまったのか」
「ごめんっなさい…源さんは、私達を守ってくれてっ…土方さんの大切な人を…助けられなくてごめんなさいっ」
グズグズと鼻を鳴らす矢央の肩をポンポンとあやすように叩いた土方。
歪む視界で土方を見上げると、土方らしくない眉を下げた頼りない笑みで矢央を見ていた。
「謝るこたぁねえ。お前は生きていてくれたからな、源さんに礼を言わねぇとだな」
「土方さん…」
震える声で土方を呼べば、土方は何も言わず矢央に背を向けた。
去って行く土方の背中が、やけに小さく見えた。
*
山崎が銃撃を受け重症だと知らせを受け、山崎の下へやって来た矢央は愕然と膝をついた。
戸板の上に寝かされた山崎は適切な手当てを受けることが出来ていないのか、剥き出しの腹に巻かれた包帯には血が滲んでいた。
「山崎さんっ!!」
声をかけても返事はなく、彼の命があると証明するのは荒い息遣いだけ。
あの山崎がこんな状態になるほど、この戦は酷いものだと改めて実感する。
「だ、誰か包帯…新しい包帯持ってませんか!?」
もしかしたら自分の時みたいに弾が残ったままなのかもしれない。
でも自分ではそれを確認することも出来ないので、医者に山崎を見てくれと頼んだが皆それぞれに忙しいのか相手にされなかった。
だったらせめて包帯だけでも替えたいと思い尋ねるも、新しい包帯なんてないと言われる始末。