駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
ーーーガシッと、手首を掴まれハッと顔を上げた。
「…もう止めえ」
「山崎さん!!」
どうやら間に合ったようで、見下ろす山崎の顔には赤味が戻ってきている。
ホッと安堵し山崎に凭れるように倒れ込むと、弱々しいながらも山崎の手は矢央の後頭部を撫でた。
「……これが、お前の力なんか。まさかまたお前の阿呆面が見られるとは思わんかったわ」
「ううっ…阿呆面でも何でもいいです!もっと言ってくださぁぁいっ!!」
「キモッ」
悪態をつけるまでには回復してくれたのだろうから、とりあえず一安心だ。
ふうと息を吐くと、「お前に命を救われるなんて俺立ち直れんかも」なんて言われたが、そのあと直ぐに「ありがとな」と小さな声で言われたので許すことにした。
もう一度山崎とこうして話せる嬉しさに涙がまた流れ、ズズッと鼻を啜ると「つけんなや?」と言われたので、逆に山崎の肩口で鼻水を拭ってやる。
「汚いわっ!」
手刀をくらい伸びてしまった矢央を支えながら身を起こした山崎は、もう一度矢央に言った。
「お前がくれたこの命、決して無駄にはせん。ほんまありがとな」
その後、矢央の手当てを自ら済ませた山崎は休むことなく癒えぬ傷を抱えたまま、また戦場へと戻っていった。
*
目を覚ましたのは夕刻間際だった。
何だか視線を感じるなと思い、瞼を開けようとしたけど……少し待て。
物凄く睨まれていないか?
まだ腹部も痛むし、もう少し寝ていようかなと思ったのが間違いだった。
「おい起きてんだろ?」
………やはり永倉だったか。
永倉の声は低く、この低さは怒っている時のものだとよく怒られた本人だからこそ分かる。
負傷した仲間を担ぎながら怪我人が集まる場所へやって来た永倉は、戸板に寝かされた矢央を見つけて肝を冷やした。
まさか自分と別れた後に……守りたかった女を死なせてしまってのかと震える手で頬に触れると温もりがあって、ガクンと力が抜けたのは、つい先程のこと。
そして矢央が身動きを取ったので意識が戻ったのかと顔を覗き込めば寝たふりをされ、
……今すぐ襲うぞコラッ!
煮え立つ怒りに顔を引き吊らせた。