駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

翌六日、幕軍は橋本、八幡の間に防御線を張り再起を図った。

が、新政府軍に寝返った津藩が幕軍を対岸から砲撃し、これにより幕軍の戦意は喪失。


大坂へと敗走した。


そしてその日の夜、新選組に衝撃が走った。


此方側の総大将である徳川慶喜は数多くの配下を戦場に残し、夜逃げ同然に江戸へと逃げ帰ってしまったのだ。


それを知った新選組の面々は悔しさに言葉すら失っていた。







「源さん、いってしまったんですね…」


大坂で新選組と合流した沖田と共に寝床で天井を見詰める。

山崎の傷は相当深かったのか、その傷を背負った矢央はまだ完全復活とはいかず、大坂に着いても療養していた。


「源さんが守ってくれたから、こんなところで倒れてるわけにはいかないんですけどね」

「その傷、本当は貴女のじゃあないでしょう?」

 

天井の木目をジッと見詰める沖田の横顔に視線をやる。



「山崎さんも貴女と同じ場所をやられたようです。無茶をしたのか出血して、島田さんに布団に縛り付けられてました」


沖田は言わないが、きっとバレているんだろうなと矢央は苦笑いする。


あれから山崎は何事もなかったように戦場に復帰し、土方に情報を伝え続けた。

彼はそれが自分の仕事で、尊敬して止まない土方が最前線で頑張っているのに、自分だけ休んでられなかったのだろう。

しかしその無理は祟ったようで、大坂に着くと山崎は倒れてしまった。


「山崎さんもですが、土方さんも疲れきった顔をしてました。この戦で多くのものを失い、刀が通用しなくなって、流石の土方さんも落ち込んだんでしょうね」

「そう、ですか…」

「ま、弱音を吐かない人なんで、これは私の想像ですけどね」


きっと土方は落ち込んでいる暇などないと、次の作戦をずっと練っているのだろう。

親しい人が見ても土方の疲れた顔を見分けるのは難しいが、沖田は土方を見て疲れているなと察した。

そして矢央同様に、源さんのことを話した後の土方の背中が酷く小さく見えた。


「……土方さん、ちゃんと休んでますかね?」

「さっき近藤さんに言われてましたから、少しは休んでるはずですよ」




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