駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
翌六日、幕軍は橋本、八幡の間に防御線を張り再起を図った。
が、新政府軍に寝返った津藩が幕軍を対岸から砲撃し、これにより幕軍の戦意は喪失。
大坂へと敗走した。
そしてその日の夜、新選組に衝撃が走った。
此方側の総大将である徳川慶喜は数多くの配下を戦場に残し、夜逃げ同然に江戸へと逃げ帰ってしまったのだ。
それを知った新選組の面々は悔しさに言葉すら失っていた。
*
「源さん、いってしまったんですね…」
大坂で新選組と合流した沖田と共に寝床で天井を見詰める。
山崎の傷は相当深かったのか、その傷を背負った矢央はまだ完全復活とはいかず、大坂に着いても療養していた。
「源さんが守ってくれたから、こんなところで倒れてるわけにはいかないんですけどね」
「その傷、本当は貴女のじゃあないでしょう?」
天井の木目をジッと見詰める沖田の横顔に視線をやる。
「山崎さんも貴女と同じ場所をやられたようです。無茶をしたのか出血して、島田さんに布団に縛り付けられてました」
沖田は言わないが、きっとバレているんだろうなと矢央は苦笑いする。
あれから山崎は何事もなかったように戦場に復帰し、土方に情報を伝え続けた。
彼はそれが自分の仕事で、尊敬して止まない土方が最前線で頑張っているのに、自分だけ休んでられなかったのだろう。
しかしその無理は祟ったようで、大坂に着くと山崎は倒れてしまった。
「山崎さんもですが、土方さんも疲れきった顔をしてました。この戦で多くのものを失い、刀が通用しなくなって、流石の土方さんも落ち込んだんでしょうね」
「そう、ですか…」
「ま、弱音を吐かない人なんで、これは私の想像ですけどね」
きっと土方は落ち込んでいる暇などないと、次の作戦をずっと練っているのだろう。
親しい人が見ても土方の疲れた顔を見分けるのは難しいが、沖田は土方を見て疲れているなと察した。
そして矢央同様に、源さんのことを話した後の土方の背中が酷く小さく見えた。
「……土方さん、ちゃんと休んでますかね?」
「さっき近藤さんに言われてましたから、少しは休んでるはずですよ」