駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
遠くにカモメだろうか、数羽の鳥が気持ちよさそうに飛んでいる。
波は少し荒いが、天気は良好。
これが戦の最中でなければ、もっと違った気持ちでこの景色を見られたかもしれない。
「江戸、久しぶりだなー」
「京に来てから一度も帰ってないんですか?」
「ええ。土方さん達は帰ってましたけど、私はなかったですね。そういえば、矢央さんの出身も江戸でしたっけ?」
「まあ、そうですね。って言っても、私のいた時代と違うから懐かしさもなんもないけど」
「そうですかあ…あ、でもそう言えば、矢央さんと初めて会った時、着物姿でしたよね?
未来のお話を聞いた時、確か洋服というものを着てるのではなかったんですか?」
「あ、あれはーーー」
そこで、ふと思う。
時代は違っても神社なら、変わらずそこに存在するのではないかと。
「私、未来で神社で働いてたんです」
神社ですか?と、聞いた沖田は、だから着物だったのかと思い。
「もしかして、お仕事中に此方へ?」
矢央が頷けば、やはりかと納得する。
「思ったんですけど、その神社なら今もあるよねって」
「その神社とはーー神社ですか?」
「なんで分かるんですか?」
これは当てずっぽなどではなく、確信に近かった。
お華の生まれ変わりの矢央が彼女に導かれて来たなら、その神社はお華がいた神社なのではないかと。
「そこはお華が祖父と暮らしていたところです。そして、お華があの赤石を埋めた場所」
「それってこーんな大きい大木の下ですか?」
身体を使って大きさを表現する矢央を、愛しげに見つめて微笑む。
もうこの手で触れてはならない存在なのに。
「そうですよ。こーんなに大きな木でした」
沖田もまた矢央の真似をして両手を広げた。
二人して笑いあう、この時間が酷く愛おしい。