駆け抜けた少女ー二幕ー【完】



その日の夜、山崎の様態が急変した。


負傷者の面倒を見ていた矢央はいち早く山崎の様子がおかしなことに気付き、額に手を当てると凄い熱だった。


「山崎さんっ!しっかりしてください!この薬飲んでください!」


熱を下げる薬を飲ませようと山崎を起こそうとするが、山崎の意識が戻らない。



そこへ慌ててやって来たのは土方だ。


「山崎の様子はどうなんだっ?」


矢央は唇をグッと噛んで首を左右に振った。


どんなに名前を呼んでも目を開けてくれない山崎の熱い手を握り締める。

船に乗った時、確かに熱は高かったけど、まさかこんなに悪くなるとは思ってもいなかった。


医者が言うには無理をしたために傷口が開き、そこから菌が入ったために発熱。

そして慣れない船旅と極度の緊張で心身共に参ってしまっている上、熱と戦のせいで滋養のある食事もとれない。


さらに医者は言った。


「今夜が峠だそうですっ」

「くっ…山崎っ!こんなとこでくたばんじゃねぇぞっ!!」


土方にとって山崎は新選組の中でも頼りにしている存在で、土方よりも年上なのにいつも土方の無茶に愚痴一つなく従ってくれる。

時々ズバッと心にくることを言われることもあったが、そんな辛口の山崎の言葉も心地良く思っていた。


これ以上仲間を失ってたまるかよっ!


土方は苦虫を噛んだような苦しい表情を浮かべる。



「土方さん、山崎さんを助ける方法ならあるんです…」


そう言えば土方の肩が僅かに動く。

矢央が言わんとすることは分かる。

あの力を使えばと言いたいのだろう。



「……それは、ならねえ」



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