駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
土方は一言「分かった」と言って出て行ってしまった。
出て行く土方を見詰めていると、くいっと手を引かれ山崎に視線を移す。
そうだ薬!!
「山…」
「ちょいと、昔話しよか…」
昔話?
今はそんな悠長なことを言ってる場合じゃないだろうと矢央の表情が怒りに変わると、くすっと山崎は笑う。
だーかーらっ笑ってる場合か!!
「俺な…ほんまはお前のこと信用しとらんかった」
「はい?」
「せやかて怪しいやん? 未来から来た言われて、はいそうですかって納得できるわけあらへん。
俺の仕事やからな、調べて調べて調べまくったのに…お前のことはなんもわからんかった」
薄暗い部屋に頼りない灯り。
ぼんやりと天井を見詰める山崎。
「副長に言われたことは何が何でも纏っとうする。局長には悪いけど、副長こそが俺の誠そのものやった。やから…その副長が命にかけても守ろうとしとる新選組に危害を加えるつもりなら、俺は迷わずお前を殺すつもりやった」
本当にあの時はその覚悟があった。
土方の中に矢央を信じようとする想いがあるのは薄々分かっていたが、それでも新選組が危うくなるならその原因は全て排除するのだろう。
しかし鬼と言われる土方は誰よりも優しく繊細な心を持っている、と山崎は思っている。
だからこそ迷う。
色んなことを悩み苦しむ姿を間近で見守ってきた。
『なあ山崎、俺は新選組が大事だ。だがな、あいつのことも失ってはいけねぇ気がしてならねえ。あいつがもしも間者だとしたら、その時は覚悟を決めねぇといけねぇな』
山崎は懐かしむように微笑んでいる。
「副長ができんなら俺が、と思ってたんやけどなあ。できんわって思ってしもた…」