駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
潮風に当たった涙は一向に乾かない。
後ろを通る人がおかしなものを見るように通りすぎていくが、どうでもよかった。
今はただ別れを受け入れるのに必死だった。
山崎は自身の死を受け入れていたのだろう。
だからこそ昔話なんてものを語り出した。
そして自分の死に際を見られたくなかったのか、矢央に部屋を出るように言った。
別れの言葉は言わなかった。
お互いに、明日はもう会えないと思いながら笑顔で別れた。
皆が好きだと言ってくれた笑顔で、山崎と最後に交わしたのは「少し…寝るわ」と、明日があるかのような言葉で、矢央は「おやすみなさい」と、山崎の手をギュッと握って言った。
『お前なあ、包帯の巻き方もわからんと、よお救護隊になろう思うたな?』
『は?副長とお前、どっちの味方かやて?
んなの決まっとる、副長や!!』
『なあ、お前好いた奴はおらんのか?
おるんやったら女の幸せ考えてもえんとちゃう』
『まあた戻ってきたんかいな?
しゃーないから、また面倒みたるわ』
「……うっ……」
山崎と交わした言葉が次々に蘇ってくる。
鼻の奥がツンとして、頭がガンガンと鐘を打った。
「…山崎さ…んっ…」
その声に、もう彼は応えてくれない。
それでも何度も何度も名前を呼んだ。