駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「文句を言うんじゃねえよ。そのうち慣れらあ」
そう言う土方は既に慣れたような振る舞いだった。
洋装姿に満更でもないらしい。
「土方さん、若返りましたね~」
「あ″!?」
しまった!つい思っていることを口に出してしまった。
両手で口を隠しブンブンと首を左右に振って何とか誤魔化そうとしてみたが、足音を響かせ土方が目の前までやってきてしまった。
懐かしい鬼の副長様だ。
「年寄りだとでも言いてえのか?あ″?」
「ひぃーっ!違いますってば!そう言うつもりじゃなくて」
「じゃあ、どう言うつもりなんだよ?」
眉間に皺を寄せたまま器用に微笑む土方のあまりの怖さに、ブルブルと震えているとふわりと背後から温もりに包まれる。
見上げるとクツクツと喉を震わせる永倉と目が合った。
「土方さん、あんま脅かしてやんなよ。おーよしよし、怖くねえぞ」
「………」
「…犬か、そいつは」
呆れて怒る気が失せたと屈めていた身体を上げて、ふーと息を吐いている矢央を見下ろすと言う。
「後で俺の部屋に来い」
久しぶりの土方のお呼び出しに、何かしたのだろうかと怒られるのかだろうかと顔面蒼白な矢央。
「煩い。本当に犬のようだぞ」
「矢央ー、お前も元新選組隊士なら覚悟を決めて逝け!」
「原田さん、なんか今のって意味が違うように聞こえましたけど?」
「ん?ああ、そうか?」
ガハハと隣で笑う原田もまた煩いと、斉藤は刀の鞘で殴る。
「いでっ!なんで殴るんだ斉藤っ!?」
「……煩い」
原田から飛んでくる唾を掌で遮り、また殴る。
「あいつらのことはほっといて、ほら行くぞ」
今回の呼び出しは永倉も付き添ってくれるようで、原田と斉藤のやり取りを笑って見ていた矢央の頭を軽くコツき促す。
そんな永倉を見上げ、彼がいるなら大丈夫かなとちょっとだけ不安が消えた。