駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
矢央の返事を聞いた二人は安堵したように微笑んだ。
「そうか。お前は、俺の姉さんのとこへーー」
「私を総司さんのところへ行かせてください」
「「は?」」
まさかの言葉に土方も永倉も間の抜けた返事をしてしまった。
だがこれも矢央は決めていたことだった。
ある程度の未来は見たが、彼等の最後がどうなるかは正直見たくなくて止めた。
しかしこのままいけば確実に近いうち死を迎えるだろう沖田のことは心配で仕方なかった。
重い病を抱えたった一人で苦しみに耐える沖田の姿を想像するだけで、胸が張り裂けそうに痛い。
「総司さんには色々お世話になったから、これからは私が力になりたいんです。新八さん、駄目かな?」
一応沖田も男である。
やはり永倉のことは気になり尋ねるが、永倉は不安気に見上げてくる矢央の頭を撫でてやった。
「そうしてやれ。総司も喜ぶんじゃねえか?なあ、土方さん」
「あ、いや。まあ、お前等がいいなら」
「じゃあ、そういうことで。皆は戦場へ、私は総司さんと皆の帰りを待ってますから」
そう言うとグッと奥歯を噛み締め俯く。
膝の上で握られた拳がブルブルと震えた。
「待ってますから…ずっと、待ってるから。土方さんも、新八さんも…帰って来てください…」
震える声は弱々しく、聞いている二人はどうしようもない想いに駆られる。
もうこれ以上、この小さな女子を悲しませたくないのに、それでもその言葉に返事をするのを躊躇ってしまうことに居たたまれない。
「……矢央、総司を頼んだ」
土方は、ただそう言うことしかできなかった。