駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
*
「さてと。じゃあ、着物着替えてこいよ」
土方の部屋を出た矢央は包みを抱えたまま永倉を見上げて苦笑いした。
どうしてそんな顔をするのか分からず「どうした?」と尋ねると、「それが…」と言いにくそうに身を捩る。
「ーーあ?着付けできねえ?」
「だっ、だって、男物なら着られるようになりましたけど、女物なんて殆ど着たことないし。ほら、その洋物と着物じゃあ全然違うでしょ?」
未来では、今永倉達が着ているような洋装が普通であって、着物なんてめったなことがないと着ることはない。
そう言えば昔そんな事言っていたな、と永倉は顎に指を添え頷いた。
「だったら俺が教えてやる」
「ふぇっ!?し、新八さんが?」
「ンだよ?俺じゃあ不服か」
「そ、そうじゃないけど……」
そりゃあこの中だったら、今や恋仲となった永倉に着付けしてもらうのが一番だろうと思う。
思うが恥ずかしくて仕方ない。
「なあに照れてんだか。そのうち全部見させてもらうんだから、照れてんなよ」
ニヤリと意地悪く微笑む目の前の男に、ほんの少しだけ殺意が湧いた。
「新八さんって、意地悪ですね」
「あ?意地悪?いや、優しいだろ。こうして惚れた女の肌を見ても手を出さねえで、丁寧に教えてやってんだぜ」
文句言いながらも、結局は着物を着られない矢央は大人しく永倉に着せられている。
そして明日からは自分で着られるように必死に覚えようとしていると、着物の合わせの隙間に永倉の手がヒョイと入り込んできて、思わず声を上げてしまった。
「ひゃっ!?な、なななっーー」
「動くな。矢央が動くからズレてんだよ」
な、なんだ直そうとしただけか……。
ホッとしたのも束の間、合わせに手を添えたままスーッと手が上へと動く。
「…っ…」
「………」
ビクッと肩が跳ね上がり、頭上からクスッと含み笑いが聞こえて顔を上げると、ニヤける永倉の視線と絡み合う。
先程から首筋を指が這う。
絶対わざとだ………。