駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「あのっ……」
「……なに?」
なに?じゃないだろ。
更に襟のところから手を入れられて、くすぐったさに身を震わせる。
意志を持ったその動きに次第に頬が紅潮しだし、矢央は永倉の服を掴んで抵抗を見せた。
グイグイと引っ張ってみるくらいだったが、漸くその手の動きは止まる。
「くっくっ。首まで真っ赤だぜ」
「ッッ!?し、新八さんっ」
ガバッと顔を上げて文句を口にしようとすると、その唇は簡単に奪われ何も言葉を成さない。
「ふぅ…んっ……」
柔らかい感触と熱い舌の動きに、閉じていた瞼を勢いよく開けた。
しっ舌が入ってますけどぉぉぉっ!!
「んっ…し…ぱ…ん…」
「……ん。ご馳走さん」
「うっ!なにがっご馳走さんでふかっ」
「あ、噛んだ」
「っっばかっ!!」
このままでは危ない予感がして、身体に腕を回し永倉から距離を取ると、張本人は納得いかないらしく目を細めている。
「恋仲なんだから良いだろ。それとも、俺とこんなことすんの嫌か?」
確かに恋仲ならば口付けくらいするものだろうが、そんなものとは無縁だった矢央にはハードルが高い。
しかし、シュンと落ち込む永倉なんて見たことなくてキュンと胸が鳴った。
ひ、卑怯だっ!!
「い、嫌じゃないですけど…」
「けど?」
「う~」
じりじりと近付く距離。
背後には壁があり、直ぐに行き止まり。
涙目で永倉を見上げていた、その時スパーンと勢いよく障子が開き、二人ともそちらに気がそれた。
開けた障子に持たれ斉藤が此方をジロリと睨んでいるように見えた。
ーーーーあ、やべ。
「いくら惚れた者同士といえど、此処は沢山の隊士が行き交う場だ。空気を乱す行為はよそでやれ」
斉藤はそう言うと障子を開けたままその場を後にする。
固まったまま丁寧に手入れされた庭を見つめていた二人。
暫くして永倉はやれやれと頭を振って、矢央がさっきまで着ていた着物を畳み始める。
もう普段となんら変わらない。
しかし矢央は時間が経つにつれて恥ずかしさが倍増していき。
「みっ見られてたぁぁぁぁっっ!!」
釜屋中にその声は響き、矢央が土方に叱られたのは言うまでもない。