駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「私にほんの少しでいい、近藤さんを安心させてあげられるだけの力をくれませんか」
消え入りそうなその声に、どうやって嫌だと首を振れるのだろうか。
そんなに酷い人間には成り切れない。
矢央が一時だけ沖田の病の辛さを拭ってやったとしても、沖田の病自体を治すことはさすがに出来ない。
死に値するものを癒やそうとすれば、きっと自らの力が追い付く前に自らが命絶えてしまうだろうから。
それはお互いに望むものではないだろう。
矢央が一時でも辛い思いをするかもしれないが、それでも願わずにはいられない。
「もう一度だけでいい。もう一度だけ、近藤さんの隣で笑っていたい」
ーーー私は元気だから心配いらないと。
ギシっと床の軋む音に僅かに顔を上げると、そこには矢央の笑顔があった。
そして背中に添えられた手の温もりと、スーッと和らいでいく痛み。
沖田の見開かれた双眸から、ボロボロと涙が溢れた。
「ごめ…んなさいっ…ごめんっ…。
ーーーーありがとう」