駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「お前も少し飲んでけよ」
「私、お酒禁止令解けてないですよ」
矢央を呼び止めた永倉は、昔矢央が酒を飲んで起こした騒動を思い出し苦笑いだ。
「やっぱ止めとけ。でもちょっと此処にいろ」
いつの間にか一緒にいた原田は島田の下で何故か筋肉を披露しあっていて、斉藤は近藤に近寄れず愚痴る沖田の世話を焼いていた。
そして一人で飲んでいたところにタイミング良く矢央がやってきたので捕まえた。
「みんな楽しいそうですね」
「無理矢理楽しんでる奴もいるけどな」
そう言われて捜してみると、浮かない顔をして酒を飲む土方がいた。
あの難しい顔はこれからのことを考えているのだろう。
いつだって戦法を考えるのは土方の役目で、彼が心から楽しめる時は来るのだろうかと心配になる。
「おい、こら。俺がいるのに、他の男に見惚れてんじゃねえよ」
「ひゃっ!?」
突然伸びてきた腕に引き寄せられ、すぐ傍にほんのり頬を赤くした永倉の顔があった。
触れる手が温かいから、きっともう酔っているのだろう。
「人がいる前で止めてくださいよ」
「誰も俺達なんて見てねえよ。んなことより、お前無理してねえか?」
「……なんでですか?」
参った。
どうして永倉にはバレてしまうのだろう。
「お前無理してる時程、よく動く」
なるほど。
確かにその通りで、考えたくないからその暇を与えないようにしていた。
この様子からして近藤が此処を出るのはもう暫く時間がかかりそうだが、それでも近いうち彼等は此処を旅立って戦に向かう。
そうなれば、今度こそ本当に別れの時だった。
「次はいつ会えるかな…」
此処にいる仲間の顔をしっかりと脳裏に焼き付けておこう。
もしかすれば今日が最後になる人だっているんだから。