駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「ホント意外すぎ…」
視線の先には、何やらコソコソと話す永倉と最近やって来た伊東がいる。
あの二人が最近では最も意外性のある組合せだった。
矢央から見て繋がりがあるとするなら藤堂なのだが、二人の間に藤堂が入ることは滅多にない。 それにくわえ、二人が会うのは人目を避けた場所でだけ。
視線を感じたのか、伊東が此方をチラリと見てコソッと耳打ちすると、永倉は罰が悪そうに顔をしかめてその場を去って行ってしまった。
後に残った伊東は、にこっと微笑むと矢央に手を振ってみせた。
「……なんだありゃ。 えらくご機嫌良さそうじゃねぇか」
「…原田さんッ!」
入口から右半分だけ身体を出していた矢央の背後に、おぶさるように外を覗き込む原田。
驚き、顔だけを上向かせると、ズシッと腕が乗り持ち上がらなかった。
「…ねえ、原田さん」
「あん?」
「バラバラに、なったりしないよね?」
「………」
急にしんみりと言う矢央を見下ろし、原田は一瞬目を細め、直ぐに笑みを浮かべた。
頭に乗っけていた腕を少しズラし、グシャグシャと触り心地よい髪を弄り回す。
「…っわ!?」
「今日は鍋が食いてぇ気分だ! 食いに連れて行ってやらあ」
「は、はい? 鍋?」
「おい、斉藤も行くだろ?」
「あんたの奢りなら行ってやってもいい」
「っああ! ちぃったぁ素直になれねぇかねぇ」
何だか上手くはぐらかされたような気がした。
でも話を蒸し返す野暮なことはしない。
原田にとって、きっと今の質問は答えに困るということだったんだろうから。
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