駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
第六話*悲しい涙
近藤を見送った数日後、沖田の病状は殆ど以前と変わらない状態に戻った。
否、一時的に回復していたからか、見た目以前より酷く感じてしまう。
そしてこの頃、沖田は植木屋平五郎宅に身を移し療養を余儀なくされた。
「総司さん今日は天気が良いから空気の入れ換えしましょうね」
佐藤家を出る時、勿論矢央は沖田と共に出ることを選び、その判断を土方の姉は何も言わず受け入れてくれた。
「いつでもおいで」と、何かあった時頼れるように言葉をくれたことが嬉しかった。
「お粥作ってもらったんですけど食べれますか?」
「…ふふ。矢央さん相変わらず料理は苦手そうですね」
「だってこの時代の物は色々と面倒なんですからね!それだけ話せるなら、お粥食べてくださいよ」
お粥を沖田に渡し、部屋の戸を全て開けると気持ちいい風が部屋を舞う。
冬も終わり春が来て、だいぶん過ごしやすくなってきた。
「そういえば近藤さん達、江戸に戻ってきたようですね」
「ええ。文では、その内顔を出すと書いてありましたが」
戦に負け江戸に戻って来た土方から文が送られてきて数日、顔を出すと書いていたがそれがいつになるのかなんて分からない。
きっと彼等は今正念場だろうことくらい、沖田にも矢央にも分かるからだ。
「永倉さんから文は来てないのですか?」
開けた戸の傍で庭を眺めていると沖田に聞かれ、目を泳がせて苦笑いする。
土方は意外とマメなようで、よく文をくれるが永倉はそれがなかった。
だから当然、江戸に戻っているという知らせは土方からしか来ていない。
矢央の表情を見て察した沖田は、それ以上何も言わずお粥を平らげることに専念した。