駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「やっぱり…狡い、なあ…」
泣かないために紫色に染まりはじめた空を仰いだ。
「私が、総司さんを見捨てないこと分かってるから…そんなこと言うんでしょ」
永倉に付いて来いと言われたとしたら、矢央はどうしたか考える。
病気で身も心も弱った沖田を一人残して自分の幸せのためだけに行けるのか?
「悪いな」
「帰って、来ますよね?」
「………」
なんで何も言ってくれないの?
嘘でもいいから帰るって言ってほしい。
願いも虚しく、空が闇に染まり星が輝きだしても永倉は黙ったままだった。
彼も彼なりに辛いのか、星空を見上げる双眸は鋭く眉間には皺が寄っている。
それからまた時間は過ぎ、少し肌寒くなった頃漸く重い腰を上げた。
「送る」
二の腕を掴まれながら嫌だと首を振った。
こんなことしても困らせるだけ。
だけど少しくらい我が儘言ってもいいよね?
「新八さん」
「ん?」
思ったより優しい声だった。
怒っているかなと心配になったのに、目の前に屈んだ永倉の顔は優しい。
黙って矢央の言葉を待っていてくれた。
「今日は一緒にいるって言いましたよね」