駆け抜けた少女ー二幕ー【完】



永倉との別れに続き斉藤とも別れ、流石に矢央も一人でいると笑っていられなかった。

家の前に着き重い溜め息を漏らす。


そしてパンパンと数回頬を叩いて気合いを入れた。



笑ってなくちゃ!!

沖田の傍にいること、それは自分が決めたことだから沖田の前では常に笑顔でいてあげたかった。



「ただいま戻りました!」

「…矢央さんっ!?」

「はい、私です?」


真っ直ぐ沖田の部屋に向かい、元気よく帰って来たことを告げると布団に寝ていた沖田が勢いよく起き上がり驚愕している。

何故そんなに驚いているのか分からず首を傾げていると、沖田は驚きから困惑色に表情を変えた。



「おかえりなさい。…もう、戻って来ないかと思っていました」


青白い顔の沖田は眉を下げ、矢央に手を差し伸べる。

沖田を安心させようと、ふわりと微笑みその細い手を取った。


「私、本当に置いてかれちゃいました」

「…同じですね」

「あはは。そうだ!二人で置いてけぼり同盟でもつくりますか」



笑顔とは逆に内容は穏やかではない。


行く宛が限られている矢央が昨晩は戻らなくて、永倉と出掛けてくると言ったので命は大丈夫だと思ったが、矢央か愛した永倉と出掛けて帰ってこないと、もしかしたらと不安が過ぎった。


矢央は永倉に付いて行ったのではないかと思い、そしてもう自分の下には戻ることはない。

そうなったとしても矢央の幸せを願う沖田は咎めることはしないし、それでもいいとさえ思いながらも、内心寂しくてしょうがなかった。


いつもなら直ぐに眠気が襲うのに、昨夜は矢央を想い寝付けなかった。



< 566 / 640 >

この作品をシェア

pagetop