駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「ねえ矢央さん…」
こんなことを言えばきっと矢央は困ってしまうだろう。
永倉に置いていかれたと笑顔で言う矢央。
よく見れば瞼は少し腫れていて、沢山泣いたのだろう。
たった一人で寂しさに耐えているんだろう。
「私はいつでも貴女の傍にいますよ」
こんなことを言う自分は非道な人間かもしれない。
「だから、私を一人にしないでください」
いつかこの優しく微笑み、暖かい手で抱きしめてくれる矢央を一人にしてしまうのに。
男とは自分勝手な生き物だなと自嘲し笑う。
守るべき存在に守られて。
幸せにしたい存在を一人残し旅立っていく。
「此処にいます。私はずっと此処にいるから」
「…ありがとう」
想いは届かなかった。
愛した人は自分ではない他の男を愛しているが、今だけは愛しい女を独占できる喜びを味わいたかった。
少しだけ、あと残り僅かな時を。