駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
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その頃新選組は四月二日流山に着陣すると、土方らは本陣長岡屋へ、平隊士ら分隊は称名院に身を寄せた。
しかしそこに新選組がいると情報を得た香川敬三率いる新政府軍やってくる。
大勢に囲まれてしまった近藤は対抗出来るだけの人数がこの時はおらず、この場で潔く切腹しようと言いだした。
が、土方はそれを止める。
こんなところで近藤を死なせてたまるかと。
「近藤さん、俺達にはあんたが必要なんだ。こんなところで死のうとすんじゃねえや」
小窓から外の様子を窺う近藤はうっふらと笑みを浮かべる。
土方が数名の隊士と、この場をどう切り抜けるか相談しあう姿を近藤は目にやきつけた。
此処までよく戦ってきたものだ。
瞼を閉じると今までのことが、つい最近のことのように鮮明に浮かび上がってきて、自然と笑みを作った。
そして、一つ決断する。
「歳、俺が時間を稼ぐ」
「ーーーーは?」
「逃げるのではなく、此方から出向いてやるさ。大久保大和としてな」
もうそれしか土方達を助ける方法はない。
近藤は覚悟を決めたのだ。
「なあに、死にはしないさ。歳、お前ならどうにかしてくれるだろ?」
ニッと歯を見せて子供のように笑う近藤に、土方もまた覚悟を決めようとした。
近藤は新選組のために命をかけようとしている。
だったら自分は、その近藤のために動こう。
「当たり前だ。必ず迎えに行く」
「…ああ。待ってるよ」
「勝っちゃん、早まるなよ」
「………」
四月三日、近藤は大久保大和として投降していった。
そしてその日の夜、新選組を斉藤に託した土方は江戸へと向かい四月四日、近藤を助けてほしいと頼むため勝海舟と面談するのだが、ことはそう上手く運ばなかった。