駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
隣の部屋からコソッと覗いているのは矢央と土方。
案外暇なんだな、と矢央は内心思う。
「それで改まってどうした?」
「えっとですね、特に用があるわけではなくて…」
近藤の前では実年齢より幼い態度を取る沖田が微笑ましい。
そんな沖田に近藤は優しく促している。
「あのほら、最近近藤さん疲れてるようだから肩でも揉んであげたいなと」
「総司がか?」
コクンと頷く沖田に、近藤は嬉しそうだった。
直ぐに揉んでくれと肩を叩いた近藤に喜び、沖田は急いで近藤の背後に回ると広い背中を見つめ嬉しそうに頬を緩めている。
「どうですか?」
「ああ気持ちいいよ。そういえば、まだ総司が小さい時もこうして肩を揉んでくれたことがあったが、あの時は手応えがなかったな」
「そりゃあ今はそれなりに力が付きましたからね」
「大きくなったな、総司」
目を閉じて本当に気持ち良いのか、近藤はうとうとと船を漕ぎ始めている。
そんな近藤の様子を見て、沖田はますます張り切って肩を揉んでいた。
「沖田さん嬉しそうですね」
「てか近藤さん寝ちまってんだから、もういいんじゃねえか?」
「良いじゃないですか。沖田さんの好きなようにさせてあげれば。二人とも幸せそうだし」
「あんな面、隊士達には見せらんねえよ」
「…なんかごちゃごちゃ煩い。ほらもう仕事に戻ってくださいよ!」
「…はいはい。て、お前も掃除の途中だったろおが!!」
ーーースパーーーンッ!!
いきなり正面の戸が開き、恐る恐る見上げるとそこには無表情の沖田が立っていて、土方と矢央は思わず抱き合って首を左右に振っていた。
違う。これは邪魔をするわけでは……
「しーっ。近藤さんが起きちゃうでしょう」
唇に人差し指を押し当てそう言ってくる沖田に頷いて見せると、そのまま沖田は何事もなかってように戸を閉めてしまう。
残された二人は安堵の息を吐きだした。
「…仕事に戻る」
「…私も掃除してきます」
隣の部屋の気配が消えたのを感じて、沖田はホッと一息つくと眠っている近藤にそっと布団をかけてから自分も部屋を後にしたのだった。