駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

矢央の顔が見たいのに、瞼が重い。


「皆に出会わせてくれたのは、お華さんと総司さんなんですよ。だから、今は二人に感謝してます」


ねえ、矢央さん。
どうして貴女は振り返らず前を見ているのですか?


私は貴女の笑顔が見たい。


そう思った時、自分の顔に影が差したので震える瞼を持ち上げると、ふわりと微笑んで沖田の頬を撫でる矢央を見て涙が浮かぶ。



「や…おさん、参ったなあ…私の方が泣き虫になってしまった…」

「泣きたい時は泣けばいいんですよ。私は、そう言ってもらえて楽になれました」



瞬きをする度に雫が頬を伝う。

何度か拭っていてくれた矢央の手が離れていったので、もう一度頑張って瞼を持ち上げるとまた御神木を見上げていた。



「でも、総司さんこそ最初は私のこと嫌ってませんでした?」


ーーー嫌っていたんじゃない。
どう接していいか分からなかったんですよ。


「そういえば、総司さんとよく食べに行ってた団子また食べたいなー」


ーーーああ、あそこのは美味しいですね。
でも口いっぱいに頬張って詰まらせるのは、もう止めてくださいよ?



ふと気配を感じた沖田は、ゆっくりと頭を動かして階段の方を見た。


驚きに目を見開き、幻かと瞬きもした。





< 591 / 640 >

この作品をシェア

pagetop