駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
矢央の顔が見たいのに、瞼が重い。
「皆に出会わせてくれたのは、お華さんと総司さんなんですよ。だから、今は二人に感謝してます」
ねえ、矢央さん。
どうして貴女は振り返らず前を見ているのですか?
私は貴女の笑顔が見たい。
そう思った時、自分の顔に影が差したので震える瞼を持ち上げると、ふわりと微笑んで沖田の頬を撫でる矢央を見て涙が浮かぶ。
「や…おさん、参ったなあ…私の方が泣き虫になってしまった…」
「泣きたい時は泣けばいいんですよ。私は、そう言ってもらえて楽になれました」
瞬きをする度に雫が頬を伝う。
何度か拭っていてくれた矢央の手が離れていったので、もう一度頑張って瞼を持ち上げるとまた御神木を見上げていた。
「でも、総司さんこそ最初は私のこと嫌ってませんでした?」
ーーー嫌っていたんじゃない。
どう接していいか分からなかったんですよ。
「そういえば、総司さんとよく食べに行ってた団子また食べたいなー」
ーーーああ、あそこのは美味しいですね。
でも口いっぱいに頬張って詰まらせるのは、もう止めてくださいよ?
ふと気配を感じた沖田は、ゆっくりと頭を動かして階段の方を見た。
驚きに目を見開き、幻かと瞬きもした。