駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

スヤスヤと寝息まで聞こえてきて、本気で寝やがったと呆れ気味に息を吐くが、その表情は穏やかで、こうしてのんびりしているのはいつぶりだろうと庭に目を向けた。


まだ京にいた頃もそれなりに忙しかったし、最初の頃に比べるとあまり矢央を構ってやれなくもなった。


「こいつに膝枕してやったのは、もうかなり前になるな」



誰に言うでもなく一人呟く。

もう一度矢央に視線を落とし、すっかり長くなった艶のある黒髪に手を伸ばし矢央が起きない程度に撫でてやる。


するとニヤニヤと矢央が笑ったように見えて、思わず土方もニヤけてしまう。


矢央が土方にこうするのは、矢央なりの甘え方だと気付いていた。



ーーー辛いおもいをさせてしまった。


自分達と一緒にいれば命の危険が伴うので心配だったからこそ、土方は矢央を手放すことにした。


その決断は今でも間違ってはいないと思うが、どんどん仲間に別れを告げられていく矢央がとうとう一人になってしまったと知るとやるせない想いにかられる。




永倉と別れた矢央の支えはきっと沖田だったはずで、病に苦しむ沖田に胸を痛めていただろうが、その沖田の面倒をみるという役目があったからこそ他の仲間との別れに耐えられたんじゃないか。


だったら今は何を支えに自分を奮い立たせているのだろうと、土方は矢央の顔をじっと見下ろし考えた。





< 599 / 640 >

この作品をシェア

pagetop