駆け抜けた少女ー二幕ー【完】


どれくらいそうしていたのか、土方は残り僅かな時間を矢央のために使おうと矢央のやりたいままにしてやる。

だから起こすに起こせないでいると、ビリビリと足がしびれ始めた。



よくよく考えたら普通は女が男に膝枕してやるもんじゃないのかと疑問が出始めた頃、少し矢央が動いたので思考を停止した。



「…ん…新…八さん……」

「………」



白い頬の上を滑る雫に目を奪われる。


矢央の泣き顔なんて、もう嫌というほど見てきたのに、こんなにも胸が締め付けられたことはない。


好きな男を夢に見て泣いているのだろう。


会いたくてしかたないはずで、土方ではなく本当に戻って来てほしいのは永倉なのだ。



「今更なんだよな…」


仲間と別れ、いつも死の瀬戸際に立つようになって漸く気付いたことがある。


餓鬼だ餓鬼だと馬鹿にしていた少女に、土方は好意を寄せ初めていたことに。



矢央の頬を撫で、少し前のめりになって顔を覗き込んだ。


良く見ると頬に影が出来るくらいに長い睫、何もつけなくても透き通る白い肌と、ほんのり桃色に染まった頬。


薄いが形がよく赤く色付いた唇から視線が反らせない。



最初は本当にただの子供だった矢央を土方は煩わしく思っていた頃もあって、感情が直ぐ表に出るので分かりやすく扱いやすいが、だからこそ対応に困った。


土方は自分が不器用な男だと自負していて、大人の女ならば黙っていても土方に勝手に魅了されてくれるから楽だった。

だが矢央は違った。


言葉足らずな土方とは新選組で一番揉めたに違いなく、よく沖田にも注意された。





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