駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

「はい。もう決めたことなんです。
だからお別れしましょう。私は私の時代で、新八さんは新八さんのこの時代で生きていくために」



その時、矢央達を包むような風が舞い上がり二人の体がゆらりと揺れると互いの距離が縮まった。


永倉は矢央を強く抱きしめる。




「ふっ。あいつらの仕業か?なあ矢央、楽しかったか?」

「はいっ。皆に会えて、新八さんと少しの時でも夫婦の真似事のような暮らしが出来て楽しかったし、幸せでした」



だからね、もう思い残すことはないよ。

たからね、新八さんお願いだから……




「新八さんが大好きでした。私を好きになってくれて、守ってくれてありがとう。
だから…私のことは忘れてください……」



永倉の腕の中で静かに涙を流し、別れの時を待つ。

先程の風とは違い、目を開けていられないくらいの強い風が吹いた。



永倉は必死に目を開けようとするが適わず、ふと感じたのは唇にチョンと軽く触れた温もり。



「…矢央っ!!待てっ!まだっ……」



風が止んだ。


腕の中にあった温もりが消え、矢央がいたはずの空間だけがぽっかりと穴を開けていた。



「まだ行くなよ……」



空を見上げる永倉の頬を涙が濡らす。

今更気付いた、置いていかれる者の気持ちが。


こんなにも胸が締め付けられるように痛み、なんとも言えない辛さに耐えていたのかと。















「矢央…忘れられるわけねぇだろ。


俺は、お前を愛してるんだから……」

















新選組と共に六年の年月を生きてきた少女は、愛した男達のために未来へと帰っていくことを選んだ。



ーーー皆のことは忘れない。

この時代で得たことを決して忘れない。


だけどどうか、皆はこの時代にいるはずのなかった私を忘れてください。


そして、あなたの道を迷わず歩いてください。




さようなら。





新八さん…………




私はとても幸せでした。


ありがとうーーーーーーーー










< 624 / 640 >

この作品をシェア

pagetop