駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

京都を出た矢央は船に乗り高知を目指す。


遠い過去、彼ーー岡田以蔵との約束を果たすためだ。



『いつか俺の故郷についてきてくれるか?』

『いつか連れて行ってください!約束!』



岡田以蔵と交わした約束を思い出しながら、指切りした小指を見つめる。

やっと約束を果たせる。


此処に彼はいないけど、いつか必ず来ようーー否、行かなければと思っていた場所。


ネットで調べた岡田以蔵の墓。
駅からタクシーに乗って暫く行くと、たまに墓を参る人がいるのかタクシーのおじさんが親切に入り口まで案内してくれた。



「ここを登っていくと墓が何個かあるから、その一番奥だよ。ああ、昨日少し雨が降って道歩きづらくなってるから気をつけて」

「はい!ありがとうございました!」


おじさんにお礼を告げて少し薄暗い山道を登って行く。

道が狭く、雨でぐちゃぐちゃになった道は滑りやすいうえに不安定で何度か転けそうになりながらも歩くこと数分。


林に囲まれた少し荒れているようにも見える場所に彼のお墓がひっそりとあった。



「以蔵さん、約束守りにきたよ。
かなり遅くなってごめんね?寂しくなかった?辛くなかった?」


きっと藤堂と違って彼は答えにはやって来ないだろう。

お華が関わりある人物なら、もしかしたら藤堂のように待っていてくれたかもしれないが、以蔵はきっと早く転生することを望んだに違いない。


人斬りとして辛い人生を歩んだ彼が、今はどこかで幸せに生きていてくれたらと願う。



「これから高知観光してきますね!以蔵さんがいた頃とは全然違うだろうけど、ちゃんと以蔵さんの故郷満喫してきます!」


来た道を戻ると、足下が泥だらけになっていた。


新選組の皆とは違い凄い場所にお墓があったもんだと苦笑いしながら、近くの電化製品店のトイレを借りて着替えることにする。


着替えてから、今度はバスに乗り駅に向かい、次の目的地にどうやって行こうかと迷っていると、



「なにか迷ってるのか?」

「へ?あ、えっと此処へ行くにはどうしたら…」

「…ああ、此処ならあそこから直接バスが出てるから…て、なに?」


矢央にまじまじと見つめられていた青年は器用に片眉を上げて矢央を見下ろした。


「あ、いえ!あのっ親切にありがとうございました!」

「…ああ、なんかあんた見ててほっておけなくなったっていうか。いや…その、気持ち悪いなっごめん!旅行だろ?此処すごく良いところだから楽しんで」

「あっ…」


台風のようにバッと来てバッと去って行った青年。


止めようとする間もなく姿はもう遙か彼方である。


それにしても彼の雰囲気や顔立ち、そしてその戸惑いがちな話し方。



「以蔵さんそっくり。まさかね?」



そのあと、青年に教えてもらったバスに乗り無事旅行を満喫した矢央は、そのまま東京へと戻って行った。





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