駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
東京に戻ってきて一番に向かった先は井上源三郎の墓がある宝泉禅寺。
そこでも同じように一輪の花を添えて手を合わせ、井上に命を助けてもらったからこそ今こうして現代に戻ることができて、皆の墓参りが出来ていることを感謝した。
そしてその足で佐藤家が眠っている大昌寺にも向かった。
佐藤彦五郎とのぶには詫びなければならなかった。
永倉と会うことが出来た日、お礼も別れも告げずそのまま帰ってきてしまったこと。
あの時は永倉との別れにばかり気を取られていて、沢山世話になった二人や最後まで心配してくれた市村に別れを告げることができなかったのだ。
だからこうして墓参りする機会に詫びと礼を告げようと思っていた。
「彦五郎さん、のぶさん、二人には本当にお世話になりました。ただお世話になるだけで何もお返しできなくてごめんなさい。
のぶさんには新八さんと幸せになりなさいって言われて、それは叶わなかったけど、私は今とても満足してるから心配しないでくださいね」
これでやっと心の中の靄が取れた。
二人に挨拶してからでないと土方に合わす顔がないから。
次に向かったのは沖田総司が眠る場所。
専称寺ーーこの寺に沖田が静かに眠っていて、でも残念なことに中には入れず、仕方なく矢央は塀から見えるお墓に向かって手を合わせた。
「総司さんは今でも大人気ですね。おかげで近くでお参りできませんよ。
総司さんが亡くなった時、私ちゃんと送り出せたか不安なんです。泣かないって決めてたのに、結局泣いちゃって……総司さん心配して成仏出来ないんじゃって」
でもその心配はいらなかった。
お華が沖田を放っておくはずがないし、彼はとても満足した顔をして亡くなっていたから。
引きずっているとしたら、きっと寂しいと思った自分の方なのだろうと。
「私の方が未練たらたらだったみたいですね。
どうか安らかに眠ってください」