駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

もう一度、君と。(おまけ込みの全完結)




「あのよお、あんたその…頭大丈夫か?」

「………はい?」



遠慮がちだけど、とても失礼な物言いに矢央の眉がピクリと上がった。


人がせっかく感情に浸っているというのに、邪魔をするんじゃないと相手にとっては濡れ衣もいいとこな思いで声の主を振り返った。




「ーーーーーえ?」

「さっきから見てたんだけどよ、あんたなんで木に話かけてんだ?」

「し…んぱち、さん…」



少し癖のある茶髪の髪を掻き上げながら、大木を見上げていた青年。



「しんぱち?誰だそれ?……あっ!しんぱち!しんぱちって、もしかして新しい八って書いてしんぱち?」



怪しい者を見るように細めていた双眸を広げた青年は、いきなり矢央の肩に手を置いて声を張り上げた。


それにも驚いたが、それよりも青年の見た目も声も仕草でさえも愛しいあの人に瓜二つで、何も答えない矢央にじれて身体を揺さぶってくる青年を凝視し続けた。




「おいこらっ聞いてんのか?しんぱちって、永倉新八なのか?」

「……は、はいっ!!永倉新八です!って、あなた知ってるの?」



漸く正気を取り戻した矢央が恐る恐る確認する。



「いや全然知らねぇな」




がっくし。


あからさまに落胆する矢央だったが、知らないのに何故名前を呼んだのか疑問に思い、もう一度質問する。



すると青年は「ちょっと待ってろ」と言って少し前まで矢央も世話になっていたこの神社の神主宅へと駆けて行った。






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