駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
原田の酌で杯に酒が溜まるのを見つめ、ゆっくりと口を近付ける。
「初めて矢央に会った時は、ガキくささがあったけど。 今じゃ多少の色恋は分かるようにまでなりやがった」
見た目だけではなく中身も成長している。
少しずつ大人になりつつある矢央を見て、原田は兄のような気持ちを抱いた。
「女は幸せになんなきゃなんねぇ。 もちろん、矢央だってな」
「……そうだな。 まあ、人のことより、まずはお前達だろうよ。 そろそろ決めたのか?」
大人組は子供組から話題を反らすと、酒を煽るペースを落とした。
胡座をかいた膝に肘をつき頬杖にすると、原田は杯の中に溜まった酒に映る自分と見つめあう。
小さく揺らせば、チャプチャプと波をつくり顔が崩れた。
「――近いうち此処を出て、あいつと暮らそうと思ってる」
「そうか。 あの人はなんて?」
夜も老けた。
先程まで星が浮かんでいた空を雲がおおい、やがてちらちらと雪が降り始めた。
「たった一言。 "屯所の傍にしろ"だってよ」
「ははっ。 そりゃ副長さんらしいぜ」
そろそろお開きとばかりに近藤、山南、土方と次々に広間を後にし、既に眠りこけてしまった沖田は井上が持ってきた掛け布団にくるまり、藤堂も同じく布団にくるまって眠った。
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