チューリップ
光る指輪
――キーンコーンカーンコーン
「沙耶ぁ~♪」
学校の朝礼が終わる。
「昨日遅くまで一緒にいたんでしょぉ??優斗くん、今日も遅刻♪」
ニタニタしながら問い詰めるよと、雪子のカン高い声が廊下に響き渡る。
雪子と優斗は二年三組。
クラスが一緒のせいもあり、時々優斗のことは、雪子から聞いてある。
「今日も?!遅くって言うほどでも無いんだけど…」
優斗の遅刻は、日を追う事に目立っていた。
雪子はそうかそうかと納得したかのような素振りを見せた後、喜ぶように手を差し出した。
「ジャジャーン♪見て♪」
白くて細い薬指に、キラリと光る物が、沙耶の視界に映し出された。
「それどうしたの?!」
”それ”がどういうことなのか、沙耶はすぐに察したが、聞かずにはいられない。
「例の…彼氏♪」
そう言って微笑みながら指輪を見つめている雪子の姿を見て雪子の幸福を素直に喜んだ。
「おめでとう、雪子」
黒髪のロングストレートに目鼻立ちがハッキリしている一際目立つ女の子。
細いだけの細さでなく「はかない」といった方が、雪子のイメージにはピッタリ。
だけど、話し方や笑った感じは、やっぱりそうそう折れない雰囲気。
いいにおいの若く濃いみどりいろの竹みたいなのだ。
沙耶は雪子のノロケ話を耳が痛くなるほど聞かされたが、親友の幸せそうな笑顔を見ると、同時に沙耶も胸がいっぱいになった。
雪子の彼氏は一つ上の三年生。
名前は司(つかさ)先輩。
頭が良く少し近寄りがたい雰囲気。
黒髪で知的な大人びた印象を持つエリート生。
まさに雪子と司先輩は、美男美女と言っても過言ではないが、雪子の活発な性格とは、全く正反対。
その中に、お互いには無いものを、二人は感じ取っていたのかもしれない。
沙耶はそう感じていた。
二人を祝福すると、一瞬にして優斗に対する見えない壁に、沙耶は表情が暗くなる。