alternativeⅡ
その地下の独房。

相変わらず薄暗く湿った空気が漂うその一角。

…音が聞こえる。

クチャクチャという生々しい音。

鉄格子の向こうで、華奢とも言える細身の男が一心不乱に何かを咀嚼していた。

食事なのは間違いない。

が、フォークもナイフも使わず、素手で食材を鷲掴みにして、口元をベトベトに汚しながら頬張るその姿は、食事というよりは『貪る』といった形容の方がしっくり来る。

独房の主、ルシファー・ルーンが口にしているのは生肉だった。

普通の人間ならば食中毒を起こしかねない、豚の生肉。

彼は豚に限らず、生肉を好んで食す。

…ルシファーの体内に移植されているのはAOKの臓器。

AOKにもまた食材に火を通すなどという習慣はなく、獣同然に捕らえた獲物を生きたまま食らう。

ルシファーは、限りなくAOKに近い人類。

その行動も、思考も、食生活でさえも。

極めてAOKに酷似していた。

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