alternativeⅡ
そう、その日はクリスマスイヴだった。

尤も、こんな戦時下だ。

その事に気づいても、食卓にケーキや七面鳥が並ぶ事も、賛美歌を歌う事もない。

国連軍モスクワ管区はいつもと変わらぬ厳戒態勢。

スペツナズの面々も、いつでも出撃できる状態で待機している。

まだ年端もいかない少年少女も多く所属しているスペツナズが、クリスマスらしい事を何一つ出来ずに戦闘準備している姿に、妃は僅かばかり心を痛める。

『自分は自分、他人は他人』を持論とする妃とて、人並みの良心というものは持ち合わせているのだ。

とはいえ、彼女も他人の事ばかりは心配していられない。

医務室の机に立てかけられた軍刀に目をやる。

先日届けられた、妃の10式近接戦闘用軍刀。

元は国連軍に所属する彼女の親友の愛刀であり、親友が重傷を負って傷痍軍人となり、使えなくなったものを妃が譲り受けたのだ。

いわば妃へのクリスマスプレゼントがその軍刀だった。

< 83 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop