「いたずらっこ。」クリスマス


トナカイは延々と走り続けている。

もちろん、時々サンタが子供たちの家に入りプレゼントを置いて行く間、トナカイは休んでいることができる。

しかしながら食べるものもなく、休まるどころか体は冷えていくばかりなのだ。

これでは死んでしまうかもしれない、とついつい思ってしまう。

そう簡単には死ぬことはない、とは分かっていても、弱音が出てしまう。


生きる者にとって、弱音というものは自己愛の一つだ。

欲求と違うことが起こり、それに対する反発であるからだ。

トナカイは、このようなことを考えながら空腹を紛らわせようとしていたのだった。


「やぁやぁ。遅くなってしまったのう」

「サンタさん、口ひげにビスケットのカスがついてます」

「スレイプ、お前にも持ってきてやったらよかったのう。ふぉっふぉっふぉ」

「ひどいなあ、もう」


クリスマスの夜は長い。

サンタクロースの魔法だ。

善良な子どもに気づかれないよう、また大人たちに悟られないようにサンタクロースが魔法をかけているのだ。


雪がゆったりと舞い落ちる夜、月が見えない夜。トナカイが報(むく)われることがあればいいのだが。

トナカイは考える事すらままならない思考でサンタの言うとおりに走っている。

きっと、これが終わったならば希望があると信じているのだ。


人生、誰だって希望や幸運に憧れる。

他者から見れば不運に見えるそれだって、当人にとっては幸運なのだ。

認識の違いについては諸兄(しょけい)各々で考えてみてほしい。


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