君に俺の目をあげる
AM1:00。


一面くすみない空には星が瞬き、世の中はしんみりと寝静まっている。


そんな中、車で待ち合わせの場所に向かった俺の隣には慶太さんが座り、タバコを吹かして気分よさ気に鼻歌を歌う。


息を吐き出せば、真っ白なモヤが目の前に描かれる寒い寒い夜。


車内にいても温まりきらない体でこっちは震えているのに、寒さなど何のそのでいる慶太さん。


普通別れた元カノなんかに会いたくないだろうに、何をそんなに浮かれているのかと聞きたくなる。


車内で女を待って、ものの数分たった頃。


「おっ。来た来た」


慶太さんの声にハッとし前を見てみると、飲み屋街からやたら身なりの派手な女がこっちに向かい歩いてきた。


素通りしないよう、念のため車のライトで合図を送る。


と、照らし出された女の姿。


俺は驚きを隠せず、目を見開いた。


今にも折れてしまいそうなくらい半端なく細い足。


それに顔が小さく、ギャルっぽい。


髪が長く、いかにも女を怠らず手入れしてます的な身なりが俺のストライクゾーンど真ん中だ。


「もしかして元カノってあの子っすか!?」


「おう。アイツ」


「すいません。俺めちゃくちゃタイプなんすけど!」


つい興奮して不覚にも裏声になってしまったダサイ俺。


なのにそんな俺など見えてないのか、慶太さんはボソッと何かを呟き、窓を開け女に話かけた。


「あれ、お前一人?」


不満げに落とす声のトーン。


鼻歌を歌っていたさっきとは違い、あきらかにテンションが低い。


露骨に表現された嫌な態度。


「今からちゃんと女来るから。待ってて!」


女は慶太さんの態度に気分を害したのかキンキン声で吠え、刺々しく言葉で噛み付いた。


声質はアニメ声で可愛らしいのに、気が強そうな女だ。


「来るんだな!?ならいいや。まず後ろ座れや」


今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気がいかにも元恋人同士って感じで、場にいずらい。


その反面、羨ましくもある。


普段の俺なら喧嘩の仲裁の為すぐさま割って入り、女に声をかけるが、先輩の元カノなだけに何も言わず黙り込んだ。
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