超能力者だけの世界で。
「紗李菜さん…?」
一番驚いていたのは氷河であった。
知らなかった。
彼女も彼に能力を見せてもいなければ、教えてもいない。
「あなた…やはり、そうだったのね。」
愛紗は薄々気づいていた。
近づいた時から。
紗李菜はニコリと笑う。
「あなたが私に何も訊いてこなかったから、言わなかった。」
「……。」
「もう少し、相手の領域に踏み込んで知ることも大事ですよ。」
「は…はい…。」
氷河に近づきながら彼女は言う。
怒られているように感じて氷河は気弱に敬語で返事をする。
「あなたは馬鹿みたいに優しすぎるし、相手に気を遣いすぎているのよ。分かってるの?」
親しい間柄の人程、干渉してこなくなるという氷河に鋭い言葉を浴びせる。
氷河は言い返せず、黙り込む。
「でも、そういうところが好きだから。」
笑いながら涙をこらえる紗李菜。
氷河の腕に白いリボンを結んだ。
「私のこと忘れないで下さい。」
氷河は何も知らなかった。
愛紗は分かっていた。
私は死ぬと言っていたから。
「…ちょっと待ってくれ。意味が分からないよ!!」
この状況を理解したくなかった。
どうして?それだけだ。
「私がこの場で能力を解いたら、この場は避けられたとしても、内部に仕掛けられた爆弾でこの建物ごと壊れます。」
どちらにしろ、彼女の能力無しでは逃げられない。
彼女の能力はこの場を離れたら解かれてしまう。
「………。俺が黒也と水流を担いで飛び降りる。愛紗は氷河を頼む。」
黒川赤次は苦渋の決断。
彼女の意志を尊重しよう。
黒也は一度、反論したが渋々受け入れた。
文句を言われても仕方ない判断だと赤次自身も分かってる。
「ありがとう。青崎くんのこと頼みます。」
氷河は動きたくても、動けない。
彼女を止めてくれる人は誰もいない。
そんなことは出来なかった。