超能力者だけの世界で。


「あなたを守りたいから。愛紗さん。行ってください。」

「…分かったわ。」


氷河を小脇に抱える。
氷河は涙を拭った。
別れぐらい笑顔で…でも、出来ないようだ。
彼女もそうだった。
最後ぐらい。
二度と会えないのが分かっているのに、悔いが残っていいのか。


「いつか…いつか!!帰ってきてください!!」


氷河は叫んだ。
精一杯の笑顔で。
もう、帰ってこないのも分かっている。
紗李菜は微笑んで、手を振った。





「ありがとう。青崎くん、またね。」







赤次と愛紗は急いでデパートの屋上から飛び降りる。

飛び降りている背後で、爆発音。銃声。
瓦礫が降ってくる。

2人は空中で障害物を回避しながら着地。

愛紗は青崎を離す。


「青崎…。」


うずくまって涙を流している。
声は殺しているが。
氷河に近づいて、覆い被さるように抱く水流。
一緒に泣いていた。
いいじゃないか。
我慢する必要はないよ。


「うっ…っ…。」

「なんで…お前が…。」

「氷河が泣いてるからさ…。」

「水流…。」


子供のように泣いている水流。
氷河はすっかり、涙は止まっているというのに。

寧ろ、笑えてきてしまった。


「ありがとう、水流。」


氷河が励ます側になっていた。
黒也も今回ばかりは、水流の暴走を止めなかった。


「黒也、大丈夫か?」

「何故だ?」

「顔色が悪い。」

「…変なんだ。」


赤次は黒也に寄り添う。
苦しげな表情の黒也。
自分でも、おかしいことがわかった。


「あの…屋上にいた紫色の髪の男、知っているような気がする。あいつを見た途端、怖くなった。」

「きっと、疲れているんだよ。」


赤次はスボンのポケットからケータイを取り出して、救急車等に連絡した。

黒也のモヤモヤした気持ちは晴れていない。

疲れているのもあるだろうが、その本当の理由を赤次は知っていた。


「黒也。」

「なっ…!?お前っ!!」

「怪我も無いようだし、無事で良かった。」


赤次はギュッと強めに黒也を抱いた。
抵抗した黒也。
でも、たまにはいいか。


「あら、黒也。今日は赤次を嫌わないのね…どうしたの?」

「そうだぞ。いつもだったら、殺気むき出しなのに。」


大人2人は真面目に心配している。
黒也は何も言わない。
赤次の腕の中が意外に落ち着けたから。


「……いいだろ。たまには保護者らしくしろよ。」

「黒也…。」


黒也は顔を赤くして言った。
赤次は、いつもと違う黒也に戸惑った。


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