超能力者だけの世界で。
びしょ濡れの水流。
少し傷も負っている。
「大丈夫か?澪原。」
「いやいや、お前の方こそ。明らかに重傷だし。」
平然としている黒也に逆に心配になる水流。
とりあえず、2人は中枢棟入口付近の階段に座り込んだ。
気まずい空気が流れる。
「あのさ…闇原は何をしにきた?」
「お前を守りに。」
「違うでしょうが、オレを…。」
「俺にはお前を殺る権利がない。」
隣に座る黒髪の青年は首を振った。
水流は黒也を見て顔色を変える。
「お前…まさか…!!右目どうしたんだ!?」
動くこともなく閉じたままの片目。
黒也は今まで見たこともない水流の表情に驚いた。
「お前と俺のことを監視していた《烏》を倒して、『澪原は殺せない』って言って《創始者》に右目くれてやったよ。」
結果として問題は解決した。
しかし、水流には予想外のことだった。
今までの闇原黒也なら、この選択肢は選ばないはずだった。
「どうして!そんなこと!?俺は望んでないぞ!!…そんなこと…!!」
黒也の胸ぐら掴む。
水流は悲しみと怒りの両方が混ざりあって、どう処理したらいいか分からない。
「オレは長く生きられないし、体は思うように動かないし…苦しいだけなんだって!!」
泣きながら訴える水流。
身体能力が常人よりも劣っている。
《創始者》によって変えられてしまった。
歩くのも苦労する時がある。
仲間には今まで黙っていた。
ずっと、苦しんできたこと。
殺されて救われるなら本望だった。
「でも、俺には殺せない。昔の俺のために。」
黒也を掴んでいた手は緩み、落ちる。
『昔の闇原黒也』
とある病室で水流が出会った少年。
少年は窓の外を穏やかな顔でいつも見ていた。
黒也は辺りを気にして見渡してから、口を開いた。