超能力者だけの世界で。


合世色弥は「仕方ないな…」と呟いて足下にあったジュースの空き缶を《烏》に目掛け蹴り上げた。

ただ単に缶を蹴ったわけではない。


「能力変換、『爆発物製造』」


白い《烏》の方に落ちた缶は大きな音を発てて爆発、その場所に煙が立ちこめる。


「色弥、手加減ぐらいはしろよ?」

「してるよ。当たり前でしょ。」


ニヤリと怪しい顔をして色弥は言った。
現在、能力で人格制御を行っている。
悪人を演じるための仮初めの人格。


「まあ、こんな軽い能力で《烏》は潰れないよ。」


白い影はユラユラと揺れ、そこにあった。


「能力変換、『重力変化』。追加変換、『能力強化』。」

「エレキ!!離れるぞ。巻き添えくらうから。」


赤次はエレキを小脇に抱えて、数百メートル離れたビルの屋上に飛び移った。

登ったと同時に、凄い物音。
付近のビルは重力の重さに耐えきれず潰れ、地面も亀裂が入り何か大きな物が勢いよく降ってきたかのように凹んだ。


「ま…マジかよ。」

「まったく、加減知らない奴だな。」


敵よりも町周辺を破壊している色弥。
これでは、どっちが悪なのか分からない。
赤次は呆れたように言うが、顔は笑顔だった。

そして、エレキは赤次に聞こえるように呟いた。


「この破壊した建物を建て直す費用は?」

「……………。」


彼は無言になった。




< 169 / 170 >

この作品をシェア

pagetop