ひみつのはら
「……たっくん、1人で入園式出たの?」
「ううん。お隣のゆかちゃんちがいた」
「……誰がそんな事言ったの?」
「覚えてない。けど、たぶん同じクラスのヤツら」
さっちゃんはしばらく、下を向いて黙っていた。ボクは、反応を待った。
でも、反応はなかった。
―――やっぱり、さっちゃんも一緒だ。ボクのはなし、聞いてくれなかったんだ。
諦めと、怒りと、悔しさと、そして……悲しみ。
全部がぐちゃぐちゃになって、気持ち悪くなった。
だから嫌なんだ。誰にも伝わらずにこんな思いするなら、伝えないほうがいい。
こんな思いしないで済むんだから。
やがてほかのヤツらも登園してきた。「おはよう」と声をかけられても黙ったままのさっちゃん。
―――なんでさっちゃん、ずっとそのままでいるんだ?
―――なんでボク、ここから動かないんだ?
―――もしかして、待ってる?さっちゃんを?
そこまで考えた時だった。
「そんなの、へんじゃないよ」
さっちゃんの呟きが、聞こえた。
「入園式に、1人じゃないなら……へんじゃないよ」
「……なんで?」