ひみつのはら

「……たっくん、1人で入園式出たの?」

「ううん。お隣のゆかちゃんちがいた」

「……誰がそんな事言ったの?」

「覚えてない。けど、たぶん同じクラスのヤツら」

 さっちゃんはしばらく、下を向いて黙っていた。ボクは、反応を待った。

 でも、反応はなかった。

 ―――やっぱり、さっちゃんも一緒だ。ボクのはなし、聞いてくれなかったんだ。

 諦めと、怒りと、悔しさと、そして……悲しみ。

 全部がぐちゃぐちゃになって、気持ち悪くなった。

 だから嫌なんだ。誰にも伝わらずにこんな思いするなら、伝えないほうがいい。

 こんな思いしないで済むんだから。

 やがてほかのヤツらも登園してきた。「おはよう」と声をかけられても黙ったままのさっちゃん。

 ―――なんでさっちゃん、ずっとそのままでいるんだ?

 ―――なんでボク、ここから動かないんだ?

 ―――もしかして、待ってる?さっちゃんを?

 そこまで考えた時だった。

「そんなの、へんじゃないよ」

 さっちゃんの呟きが、聞こえた。

「入園式に、1人じゃないなら……へんじゃないよ」

「……なんで?」
< 14 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop