ひみつのはら

「いつまで突っ立ってんの?」


 後ろから声をかけられる。舌っ足らずのこの声を、大人は「かわいい」と言う。


 あたしにとっては。


「今入ろうとしてるんですぅー!」


 喧嘩の始まりの声!


 あたしはこの声に、必ず言い返す。


 振り返ると、思った通りの姿。
あたしより小さい、2年前のあの雪の日、あたしと正面衝突したチビ男子。


「へぇ、ホントのろまだね」


 う・ざ・い!!


「チビのくせによく言うよね~」

「な、それはこっちゃんも一緒じゃん!あ、こっちゃんは人間も小さいのか」

「何それ!?見上げながら言ってるくせに……!!」


 一応言っとくと、あたしはみんなに「こっちゃん」って呼ばれてる。


 で、このちびっ子男子は「たっくん」。本名小林拓人。


 同じ組にはなったこと無いけど、出会って2年、ずっと喧嘩友達だ。


 で、そのままぎゃあぎゃあ喧嘩してると。


「はいはいストーップ!もォ、何朝からケンカしてるの?」


 そんな声がかかった。


「あ、さっちゃん。おはよう」

「……おはよ」


 あたし達の喧嘩を止めたのは、さっき紹介したさっちゃんだった。


 さっちゃんはいつもこうやって喧嘩を止めてくれる。
いわば、あたし達の「第2のお姉ちゃん」。


 ほかの子達には、止められるどころか逆に泣かしちゃう。あたしとたっくんはみんなにも言われるくらい悪口大トクイなんだ。


 自慢、にしちゃまずいよね……。

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