ひみつのはら

 あたしは走りながら、ずっと言おうとしてたことを言った。

「ありがとう」



 風の音、木の音、草の音、あたしの音。

 それだけの空間に。

「―――うん」



 しげるくんの音が響いた。



             ♪

 

 しばらくして、ぽつりとしげるくんが話し始めた。

「ぼ、ぼくね……緊張すると、〝どもり〟が出るの。にゅえ、入園した日に、周りの子におかしいって言われて……話したくなくなった」

「ドモリって、何?」

「こ、こういうの。うまく、言葉が出ないの」

 そう、だったんだ。仕方ないこと、なんだ。

「へん、でしょ?ぼく」

 顔を伏せたまま、しげるくんは呟いた。

 なんて言ってあげればいいか、分かんない。へんじゃないって言ったらウソになる。

 さっき、思っちゃったもん。

 でも、悪いことじゃないんだよね。
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