不器用な僕たち
兄貴は自分で作った曲を、男にしては高音の澄み切った声で切なく歌い上げる。
薄々と、その全ての曲は千亜紀に捧げていると感じていた。
でも兄貴は詞の意味を公表していなくて、『ファンのみんなで好きなように想像してほしい』と言っている。
そんな兄貴に彼女がいると分かれば、当然ファンは「彼女のために作ってたんだね」ってなる。
それがマイナスになり、今や事務所の稼ぎ頭となっているベルマリの人気が落ちることを懸念しているんだ。
『雅人。涼も千亜紀ちゃんもバレないように頑張っているけど、お前も協力してやってくれよ?』
浩平くんは、最後にそう言って電話を切った。
付き合い始めてから、兄貴は千亜紀を東京に呼ぶことを止めた。
千亜紀はその理由を知らない。
でも……俺は知っている。
知っていながらも、千亜紀に平然と嘘をついた。
『忙しいから会う暇がないんだよ』って。