不器用な僕たち
ライブの打ち合わせを終えて事務所を後にすると、アイツは待ちかねたようにコンビニから出て来た。
気配を感じながら、僕はヤツを撒くこともせず、いつもどおりの帰路でマンションを目指す。
そして、マンションのエントランスに着くと同時に後ろを振り返った。
「御苦労様です、藤森さん」
僕がニッと笑って声をかけると、ヤツ……藤森さんはフンと鼻で笑う。
「呑気なこった……」
藤森さんはすぐそばの電柱にもたれかかり、胸元からタバコを取り出すと火を点けた。
「……いくら探っても、何も出てこないですよ?」
ズボンのポケットに手を突っ込み、余裕の態度で切り出す。
藤森さんはタバコの煙をゆっくりと吐き出す。
そして、まだ一口しか吸っていないタバコを足元に落とし地面に擦り付けた。