不器用な僕たち

藤森さんは、『週間スクープ』の敏腕記者だ。

『藤森に狙われたら最後』という合言葉まであるほど狙った獲物は逃さないし、ガセネタとは無縁の人だ。


「……おまえ、高校生と付き合ってるだろ」

「……は?おもしろいこと言いますね」


笑いながらも、心臓はドクンと鈍い重低音を響かせる。


「余裕ぶっこいてんじゃねぇぞ」

「いや、余裕もなにも……。僕には特定の彼女なんていませんから」

「そうかぁ?」


藤森さんのニヤリと笑う顔が、電柱の街灯に照らされる。

カマをかけているのか。

それとも事実を知っているのか。


「おまえ、ツアー中のリハ放り出して地元に戻ったことがあったよな?」

「……あ……、それは……家族が事故に遭って……」


千亜紀が事故に遭った日のことだ。

ICUに入っている千亜紀に会いに、地元までトンボ帰りした。

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