不器用な僕たち
「――……涼。ちょっと来い」
数日経って、藤森さんの忠告が現実のものとなった。
その日、事務所で打ち合わせしていたベルマリ。
僕だけが社長室に呼び出された。
数える程度しか足を踏み入れていない社長室。
部屋の隅に置かれている、趣味の悪い古代ギリシアの彫刻は、以前と同じ位置で僕を出迎える。
彫刻の女神が僕に向ける冷たい眼差し。
それはまるで、僕をあざ笑っているかのようにも思えた。
「これは、どういうことだ?」
革張りのソファに僕が腰を下ろすと、社長は眉間に皺を寄せたまま、数枚の紙切れを見せた。
発行前のゲラ。
そこには、いつかのライブで唄っている僕の写真と、犯罪者のように顔だけモザイクをかけられた女の子の写真が載せてあった。