不器用な僕たち
「この子とは別れろ。おまえの相手は、女優の来須ミクだ」
「……は?」
女優の来須ミク……。
確か僕と同い年で、若手ながらも実力のある女優。
一度も会ったことがない彼女が、僕の恋人?
「近いうちに言うつもりだったんだが……」
社長は険しい顔をして話し始める。
「来年の冬に公開される来須ミク主演の映画……。主題歌に、おまえたちを起用したいという話があったんだ」
「……話題……作りですか?」
震える声で訊くと、社長はなんのためらいもなく頷く。
その瞬間、僕のなかで何かが壊れていく音がした。
「冗談じゃないです。話題作りのために千亜紀と別れろと言うんですか?」
「……涼」
いきり立つ僕を前に、社長は逆切れすることなく落ち着いた態度を見せた。