不器用な僕たち

そんな社長の姿を見て、思った。


あぁ、そうか。こんなこと僕だけじゃないんだ。

この世界では日常茶飯事なんだ。

相手が一般人であれば尚更。

用意周到な偽装恋愛。人気と金のためにはなんでもやる。


「――幼馴染の子は高校生だろう?」


デビュー当時から世話になってきた社長も、所詮は業界に身を置く汚い人間。

裏切られた気持ちになったけれど、社長が続けて言った言葉を聞いて、僕は反抗することを止めた。


「このことが公になったら、その子はどうなるんだ。お前や、その子の家族は?」


それは、来須ミクとの件を承諾しろという脅しではなかった。

社長は悲しげな目で僕を見据え、答えを待っている。


もしも公になったら?

普通の学校生活を送っている千亜紀はどうなるんだ。

……そんなこと、目に見えている。

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