不器用な僕たち
◆雅人 side◆
◆雅人 side◆
きっと、兄貴を殴ったのはあの日が最初で最後だ。
兄貴と別れたことを千亜紀に聞いてから、はじめて兄貴が実家に帰ってきた夜。
俺は、何の前置きもなしに兄貴を殴った。
その理由をじゅうぶんに分かっていた兄貴は何も言わなかったし、俺もまた、何も言わなかった。
その日以来、兄貴と話すことといえば……。
「千亜紀、今度は工学部の男と付き合ってるんだぞ」
兄貴と別れて以来、いろんな男と手当たり次第付き合うようになった千亜紀のことだけだった。
『そうか』
電話越しに千亜紀の近況を聞く兄貴は、いつも、静かに笑うだけだ。
俺はその声を聞くたびに、「ざまぁみろ」と心の中で嘲笑う。