不器用な僕たち
兄貴の口から語られる、あの頃の真相。
俺は聞いていくうちにひどく後悔した。
なぜ、兄貴を殴る前に理由を訊かなかったんだろう。
話題作りと、当時、高校生だった千亜紀。
いろんな思惑と、千亜紀を守るために兄貴が選んだ道。
ただ、正直に理由を話して「別れよう」だったら、千亜紀はきっと抗っていただろう。
それは俺にだって想像がついた。
だからこそ、兄貴は敢えて千亜紀に冷たい態度を取り、罵ったんだ。
千亜紀と兄貴の心の傷は同じくらいに、深かったんだ。
「千亜紀に話せよ。あいつはまだ、兄貴のことを……」
『雅人』
言いかけた俺の言葉を遮るように、兄貴が声を発する。
『おまえ、千亜紀のことを好きなんだろう?』