不器用な僕たち
『……そうだな』
「ついでにさ、千亜紀の就職先、兄貴に頼んでいいか?」
『……は?』
「あいつ、もうすぐ卒業ってのに、就職まだ決まってないんだぜ? 兄貴んとこの事務所でもいいからさ」
『事務所に訊いてみるよ』
兄貴の笑う声。
久しぶりに聞いた気がした。
兄貴との電話を切ったあと、アドレス帳を開いて千亜紀の名前を指で辿る。
このことを千亜紀に知らせよう。
あいつ、今ごろ何番目かの男とおもしろくもないデートでもしているんだろうな。
発信しようと指で触れたボタン。
「ま、いっか」
思いなおして、俺は発信ボタンを押さずに携帯をパタリと閉じた。