不器用な僕たち
翌日、僕は事務所に行くなりすぐに社長室に直行した。
昨日、雅人と電話で話したあとに思いついた、今度のツアーで行う地元限定のMC。
社長に内容を伝え、深々と頭を下げて頼み込む。
社長はしばらく考えたあと、静かに微笑み、言った。
「いいぞ」
社長の許可が出ると、僕は何度も礼を言い、社長室を出てすぐ雅人に電話をかけた。
『……どうしたんだよ』
雅人は就職が決まり、卒論と格闘しているとお袋から聞いていた。
おそらく昨日は、遅くまで卒論を書いていたのだろう。
昼前だというのに、雅人は寝ぼけた口調で電話に出た。
「今度のライブ、チケットを送るから千亜紀と一緒においで」
『……は? 初めてじゃん、兄貴から誘うの』
「とにかく、絶対二人で来いよ?」
『……う~ん……、できるだけ努力してみる』
それだけ言うと、雅人は「ごめん、ちょっと寝かせて」とすまなそうに電話を切った。